【知っておきたい科学技術】バイオミメティクス〜蚊の口器を注射針へ応用〜

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バイオミメティクスとは

「バイオミメティクス」とは、生物模倣、つまり、生物の構造とその機能から着想を得て、それらを人工的に再現することによって、工学や材料科学、医学などの様々な分野への応用を目指そうとする研究です。

「バイオミメティクス」の研究は、比較的新しい研究分野で、現在、欧米、特にヨーロッパ先進国で活発に行われています。日本では、この分野の研究が発展し始めたところのようです。この分野の特徴として、研究を推進するためには生物学、物理学、化学、工学、医学などの大変広範な分野の研究者がしっかりと連携することが大切といえます。

ここでは「蚊」の機能を模倣したバイオミメティクス研究を簡単に解説します。2012年、医療機器メーカーのライトニックスが、蚊の針を模倣し痛みの感じにくい採血針(ピンニックスライト)を開発しました。蚊の生態とともに研究について詳しく見ていきましょう。

蚊の生態

蚊は、ハエ目糸角亜目カ科に属する昆虫です。世界で約2500種が確認されており、日本国内では約100種が確認されています。古い個体は約1億7000万年前から生息していたと考えられています。蚊は一般に動物から吸血をすることによって生存に必要な栄養素を獲得していると考えられていますが、日本国内に生息する種のうち、吸血をするのは10種程度で産卵期のメスのみです。

蚊の体長は5〜15mm、重量は2〜2.5mg、2枚の翅、細長い脚、長い口吻を有します。蚊の羽音は400〜900Hz程度でありヒトの可聴域のうち高周波帯に含まれ、一般的にモスキート音として認識されます。行動範囲は種により異なり、重量が軽いため1日に10km以上移動することが可能な種も存在します。

通常、蚊は植物の蜜や果汁などの糖分を含む液体を餌としており、吸血はメスが卵を発達させるために必要なタンパク質の確保のために行う行為です。吸血の際、小顎の先端にある鋸歯で吸血対象の皮膚に傷をつけて侵入し、吸血に必要な成分を含む唾液を注入後に吸血します。蚊の唾液が体内に侵入することによりアレルギー反応を起こし、かゆみの原因となります。

蚊は二酸化炭素、汗、体温に反応して吸血対象に接近します。また白と黒しか認識できないため、黒いものに接近しやすい性質があります。以下には日本国内に生息する代表的な3種についてまとめます。

<アカイエカ>

主に屋内で確認されることが多く、昼間は壁面や天井に潜伏し、夜間に活発的に活動します。日本脳炎を引き起こすウイルスを媒介する衛生害虫です。犬や猫も吸血対象とするため、フィラリア感染症も媒介することがあります。環境次第で越冬が可能です。

<チカイエカ>

アカイエカの亜種とされます。見た目にあまり差は認められませんが、気温が低い環境でも産卵が可能であり、冬場に出現することがあります。

<ヒトスジシマカ>

ヤブカとも呼ばれます。主に山林に生息し、デング熱やジカ熱などの伝染病を媒介し、刺された際のかゆみが強いことが特徴です。

蚊の口器の構造

蚊は吸血の際に針状の顎を吸血対象の傷口に挿入し、唾液を注入後に吸血します。口器は非常に細く、ヒトは刺されたことをあまり知覚しません。

蚊の口器の機能

蚊は口器を用いて餌となる植物の蜜や果汁、動物の血液を吸入します。特に吸血する場合、その口器は吸血対象の皮膚に傷をつけ挿入することに長けており、対象に知覚されないような工夫がなされています。具体的には、蚊の針は上唇、下唇、咽頭、各2本の大顎と小顎の計7本で構成されています。特に小顎の鋸状の部分が挿入の際に接地断面積を減らしていることが特徴的です。7つの部位を連動させることにより、痛みを軽減し効率的な吸血を助ける機能を持ちます。

蚊の口器の医療機器への応用

蚊の針は前述の通り、痛みを軽減する機能を持ちます。医療現場において、痛みの少ない採血針の要望があったためこの機能を基にした注射針の開発が進んでいます。

通常の採血針は直径600μmありますが、蚊は、上唇、咽頭、各2つの大顎と小顎の計6つの部位が下唇に収まる構造を取っており、これらの直径が60μmと痛点を避けるには十分な大きさになっています。現段階では直径200μmまで商品化しており、さらに細い構造の実現により、注射の負担が感じられなくなるかもしれません。

蚊の口器の内視鏡カメラへの応用

蚊の鋸状の針と挿入メカニズムを内視鏡カメラへ応用できると考えています。内視鏡の管の断面に凹凸を付けることで、体内での接地面積を減らし異物感を低減します。また、管の挿入を蚊の針のように段階的に行うことでスムーズな挿入が可能になると思います。

まとめ

バイオミメティクスの技術は身近に溢れています。生物の進化によって得られた効率の良い機能を利用することで、より私たちの生活を豊かにし、環境への負荷も減っていきます。

一方、バイオミメティクスを語った商品の中には、技術は実装しているものの効果が極めて限定的なものや、そもそも技術が用いられていないにも関わらず強引に技術利用について語っているものもあります。

科学技術について積極的に学ぶことによって生活を豊かにし、新たなビジネスチャンスをつかめるかもしれません。

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